この世にドラマ、アニメ、漫画などなどでお約束を通り越してカビの生えてしまったトリックがあります。
その一つが“紐を使って外から鍵を閉めるトリック”です。
窓やドアの内側にはなかから鍵を開け閉めするためのつまみがついている(「クレセント」とか「サムターン」といいます。)そのつまみに紐を巻き付けて、もう一方の端を延ばして窓の周囲の換気扇とか、ドアの隙間から外に出す。それを外から引っぱれば、外からつまみが回せる。強く引っ張ると紐がとれるようにしておけば、紐がとれた後には「鍵のかかった部屋」=密室が残される。
p.7より引用
「ミステリーだ」、「密室だ!!」と言われてこの“紐を使って外から鍵を閉めるトリック”が使われていたら温厚な私でも本を投げつけるかもしれません…。(実際そんなことはしませんが)
本作『鍵のかかった部屋』では上記で引用した密室トリックがどの短編でも使われています。
先に「このトリックを使う」と決めてしまってから中身を考えるアンソロジーなのです。
『鍵のかかった部屋 5つの密室』
『鍵のかかった部屋』は非常にバラエティに富んでいるアンソロジー!!
読み手は最初からトリックが分かりきっている状態で読み進めることが出来て、普段読んでいるミステリーとはまた違った感覚。
それだけでなく、どの短編も同じトリックが使われているのに、その内容やオチはすべてバラバラ。
さあ、あなたはどの短編がお気に入り??
似鳥 鶏|『このトリックの問題点』
ミステリ研究会に所属する真中は、滝会長の部屋で“紐を使ったトリック”を実行しました。
目的は、滝会長がミステリーの新人賞に応募する予定だった完成原稿。
それがなくなったのですから会長は慌てて「何者かに侵入された!!」とサークルメンバーに連絡。
小説などではカビの生えてしまったトリックでも実際にそれを目の前にすると案外わからないものだ。
メンバー全員で滝会長の自宅に押しかけてみんなのアリバイ確認なんかをしているが、例のトリックに関しては誰も気づかないじゃんか!!
感想
一発目から大好き系のミステリーや…(*´Д`)
似鳥さんの作品らしく、ユニークでスラスラ読め、ラストにはホッコリする作品。
「日常の謎」をポップに仕上げるだけでなく、読み手を驚かせるために一捻りして「あっ」と驚けます!!
そして、タイトルの通り『このトリックの問題点』を指摘していて読者の誤認識をスッキリ解消。
まさか“紐を使った密室トリック”にこんな問題点があったとは…。
友井 羊|『大叔母のこと』
1、2回しか顔を合わせたことのない大叔母・成瀬富士子が亡くなった。
密室が絡んだ事件とかではなく癌が原因で亡くなってしまったのだ。
会話すらまともにしたことのない大叔母の死後、お小遣いに釣られ自宅の片付けを引き受けた美奈は富士子の家を訪れる。
部屋を掃除していると『鍵のかかった部屋』が1つ。けど玄関の鍵しか預かってない
鍵がかかっているなら後に回してお母さんに電話で聞いてみよう。と別の部屋を掃除していると茶封筒から
「我が家には閉ざされた部屋があります。それを開けた方にはとても価値のあるものを差し上げます。」
という大叔母が書かれたものと思われる文章が入っていた!!
部屋の中にはいったい何があるのか??
そもそも、なぜ富士子は密室を作ったのか……?!
感想
……さすが友井羊さん…。
思わず言葉を失うほど感動してしまうこのお話
個人的には大好きです!!!
最初は1つの謎ですが、2つ、3つと点の謎がどんどん増えていき最後にその謎がすべて線で繋がる瞬間。
もうゾクゾクが止まりませんでした!!
友井さんにこの手のお話を書かせると必ずと言っていいほど感動しています♪
彩瀬 まる|『神秘の彼女』
新入生歓迎会で酔いつぶれた玄馬のポケットに「すごく楽しかった! また話そうね。春♪」と大学サーバーのメールアドレスが書かれたメモが入っていた
それが3か月前。それからはSNSで頻繁に連絡を取り合っていました。
玄馬の執筆途中の論文を読んでくれ、さらに、一緒に先行研究まで探してくれるような女の子。
こんな良い子絶対に逃がさない。
そんなある日、玄馬が春をデートに誘うと「もう会えない。ごめんなさい。」という一言を残して春とは連絡合付かなくなってしまいます…。
SNSがだめなら大学が同じなんだし直接探し出して話そうと決意する玄馬。
それに付き合わされることになった正悟は捜査を開始する。
春はなぜSNSのやりとりをやめてしまったのか。
春に隠されたある秘密とは……??
感想
玄馬…。キミは男の鏡だぁぁあ!!
私は感動したっ!!
青春ミステリーの中でもこの短編は面白かったです。
正悟と玄馬のノリが漫画のように軽快でスラスラっと、本当に漫画を読んでいるかのように読めてしまいました(^^♪
春ちゃんに隠されている秘密はかなり衝撃的でしたが、それを広い心で受け止める玄馬。
まったく泣かせてくれるじゃないですか!!
芦沢央|『薄着の女』
女優を目指す朝比奈ユリはある出来事がきっかけで男を突き飛ばし結果死んでしまった。
アイドルを目指すユリにとってこの事件が報道されようものなら今後の芸能活動に悪影響を及ぼしてしまう…っ。
なら、この男のスマートフォンの指紋を全部拭き取り、私がこの部屋にいたという証拠を消し去ろう。そう、私はこの部屋にいなかった。
しかし、警察側からすると男のスマートフォンから一切指紋が検出されなかったことが逆に妖しかった。
「画面だけであれば、本人が見やすくするために何かで拭ったのだろうと解釈することもできますが、なぜか被害者のスマートフォンからはカバーの部分からも誰の指紋も検出されませんでした。通話記録、通信記録を確かめると被害者が使用していた形跡があるのに」
p.163より引用
画面側ならともかく裏面からも指紋が発見されないのは不自然。そう考えた警察は他殺の線で捜査を開始する。
ドアの鍵付近に傷。なるほど、“紐を使った密室トリック”が使われたわけだ。しかし…
「このホテルのドアには気密パッキンが使われている。しかも、どうもその端が鋭い角になっているらしく、糸を無理やり通しても引っ張る段階で切れてしまうんだ」
p.165より引用
さて、“紐を使った密室トリック”が使用できないとなると犯人はどうやって密室を作り上げたのか??
感想
芦沢央さんらしく、王道設定の本格ミステリーでした。
今回『鍵のかかった部屋』に収録されている短編で一番ミステリー要素が強かったです。
『鍵のかかった部屋』ではトリックはどれも紐を使った例のものと決まっているのにそれが不可能?!
それではルール違反なので例のトリックで犯行が行われたのは確かなのですがどうやって??
このように考えれば考えるほど泥沼に嵌っていきましたが、最後には「なるほどね。それでこのタイトルか!!」という納得の解決でした。
おわりに
え?! 島田荘司さんの短編『世界にただ一人のサンタクロース』が抜けてるって??
安心してください。わざとです。( #`Д´)=○)゚3゚)・∵.ガッ
いやいや、言い訳を聞いてください。
どうやら、島田さんは『鳥居の密室』を発売しているんです。(8月31日発売)
その新作の一部が『鍵のかかった部屋』の最後の短編『世界にただ一人のサンタクロース』だそう。
こちらとしてはネタバレはあまりしたくないので、次回の『鳥居の密室』を紹介する記事でまとめて紹介することにしました!!
田舎に住んでる商品の到着が遅れて今読んでいる最中なのでもうしばらくお持ちくださいm(_ _”m)
では、次回の『鳥居の密室』の記事でお会いしましょう(@^^)/~~~