第53回メフィスト賞を受賞した超大作『NO推理、NO探偵?』の作者である柾木政宗さんがついに新刊『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』を書いてくれました!!
今回も前作同様、連作短編集として刊行しています。
もちろん、はちゃめちゃなキャラクターが登場してやりたい放題というスタンスは健在です。
最終話では『NO推理、NO探偵?』で見せた「こんな仕掛けが隠されていたのか!!」と驚くようなどんでん返しもありますよ!
Contents
柾木政宗『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』
名探偵だった父の後継ぎとして探偵事務所を経営している望月迅人(もちづき はやと)は今日もストーカーである朝比奈うさぎ(あさひな うさぎ)に付きまとわれています。
迅人が持つ謎の体質”もたれ体質”のせいで…
もたれ体質というのは、大抵は事件現場に出くわし事件の第一発見者となり周囲から疑惑を”もたれ”たりするのです。
ミステリー小説に出てくる主人公や某少年探偵もこの体質を持っていると思われます(*‘ω‘ *)
そんな厄介な体質を持つ迅人ですが、探偵としてはまだまだ未熟。
なので、大体の事件はうさぎが愛を証明する”ついで”に解決しています。
そして、本作に収録されているお話は
- 『夜に訪れるもの』
- 『危険な遊園地』
- 『無駄に終わった密室』
- 『雪の中の温室で』
上の4話で構成されています。
『夜に訪れるもの』
警察官の姉・望月弥生(もちづき やよい)に誘われ、直廊山(ちょくろうやま)のペンションに宿泊することになった迅人。
もちろんだが、ストーカーのうさぎも一緒についていきます。
ペンション周辺を探索し何事もなく1日目を終えるのですが、2日目の朝迅人たちとは別の宿泊客の悲鳴で目が覚める。
3人は急いで悲鳴が聞こえたリビングに向かいました。
そこには、青ざめた顔の宿泊客達と首にロープを巻かれて亡くなっている春日さんの死体が…
事件現場はひどく荒らされていて、盗み目的の外部犯と思いきや何も盗まれたものはなく、内部犯を疑おうにも全員が初対面で動機が無い。
さて、事件の真相は…?
感想
ラブコメ要素もふんだんに取り入れつつ、しっかり本格も入れてくるあたりさすが政宗さんという言葉しか出てきません。
最初はこの特殊過ぎる設定に追いつけませんでしたが、読みやすさと説明の分りやすさもあり一気に世界観にどっぷりです♪
このクオリティの短編があと3つもあるのかと考えると読む手がつい早くなってしまいますね(*’ω’*)
『危険な遊園地』
人気遊園地・プライマルワールド。
迅人の姉・弥生はその遊園地の大ファンである。
どのくらい好きなのかと言うと、プライマルワールドのキャラクター・ピーリィを見つけたら、警察手帳を使ってでも止めるくらいです(;´∀`)
さて、今回の舞台は遊園地。
ハローウィン前で園内は人でパンパン。
そんな中、もたれ体質の迅人は殺人事件の第一発見者になってしまいます。
―そこには若い女性が倒れて死んでいた。後頭部から大量に血が流れている。すぐに誰呼ばなくては。
p.104ページより引用
迅人は、発見場所がカメラの死角ということもあり状況的に一番怪しいとここでも疑惑を”もたれ”てしまいます。
警察の必死の捜査も虚しく、犯人がカメラの死角に入り込む瞬間すらも発見できませんでした。
さらに、園内には以前から弥生が追うスリの常習犯・佐々木の姿が…。
感想
うーん、これまた美味しい謎が!!
カメラの死角で行われた犯行に、カメラの設置場所を完全に把握していると思われる犯人。
さらには、スリの常習犯まで居合わせているというワクワクするこの舞台設定。
解決パートでのうさぎちゃんの愛を証明するついでにみせたロジックも完璧でした♪
まさに、遊園地だからこそできた殺人事件です。
『無駄に終わった密室』
時間は少し巻き戻り、迅人とうさぎの出会うきっかけとなった事件のお話。
当時のうさぎは大学受験を控えていて、おじである稲葉兵部(いなば ひょうぶ)の家で受験勉強の日々を送っていました。
そんな中、自宅で兵部氏が首を吊って亡くなっていることを使用人が発見し、通報。
死体発見時、現場は密室で、ドアの鍵は特殊な形状のため複製は不可能なのだそうだ。
遺書は発見できなかったが、現場の状況が密室という事から、自殺の線で捜査が進んでいたとき鑑識員から―
「死体の首の索条痕が、通常の首吊り死体より水平に近いです。首を吊ったのであれば、もっと斜めに残るはずです。首吊りは、偽装の可能性が高いです。」
p.151より引用
まずは密室を解き明かさないことには真相は見えないと感じた迅人は現場周辺の捜査を開始します。
そこでなんと、密室を作るための手順が記されていたメモを発見することに。
このメモは犯行を失敗しないために書かれたメモなのか?
感想
本格では王道の密室殺人事件。
たいていの密室ものは、いかにして密室を作り出したのかという、ホワイダニットを魅せて楽しませるのですよね。
しかし、本作は物語の中盤でホワイダニットが解き明かされているのでどうやって魅せてくれるのかが気がかりでしたが、そういうオチにもっていきましたか…
これは政宗さんにやられましたね!!
『雪の中の温室で』
1話目でも出てきた直廊山に舞台が戻ります。
ことの発端はスリの常習犯・佐々木が何者かによって殺害されたことから始まります。
「その佐々木の自宅で、気になるメモが発見されたの。『岩科旅館』と殴り書きされたメモよ。この旅館名、調べたら全国のあちこちにあったんだけど、直廊山にもあるみたい」
p.206より引用
直廊山にある岩科旅館という場所が佐々木の死となにか関係があると踏んだ弥生は迅人とうさぎに現場に行くようにと依頼。
岩科旅館で温泉を満喫し「今回は何事もなく終わりそうだ」と思った迅人でしたが、次の日の朝、物音が気になり外を見てみると1組の足跡が裏庭にあるビニールハウスに伸びていた…
外を見ると、雪はやんでいた。裏庭に積もった雪を朝の光が照らしている。きらきら光って幻想的な光景だ。
ただその雪に、何か跡が付いている。だれかの足跡ではないだろうか。p.233より引用
その足跡が気になり辿ってみるとそこには、旅館の従業員・田渡が頭から血を流して亡くなっているのを発見してしまいます。
警察も到着し、捜査が本格化するなか、片桐という宿泊客が警察の目を盗んで逃走。
果たして、彼が本当に犯人なのか?
感想
今回は完全に迅人回です。
これまで、疑われるたびにうさぎちゃんがついでとは言え解決してくれていたのですが、このお話では迅人さんがしっかり探偵しています!!
(最後の方は結局うさぎちゃんが持っていきましたが…)
1話、2話で起こった事件が4話でまさか繋がるとは…
それこそ、政宗さんの前作『NO推理、NO探偵?』を思い出します。
まとめ : 前作同様、好き嫌いが分かれるクセのある作品。
どのお話もしっかり読めばちゃんと犯人までたどり着け、トリックも分かるようになっています。
なので、推理しながら読むのが好きな読者にはおすすめの短編集。
”ラブコメ本格ミステリー”というテーマなので、ラブコメ要素も入ってくるのですがそのせいで、「ミステリーがおまけみたいじゃん!!」と感じる人もいるかもしれません。
それに、ヒロインのうさぎちゃんのクセが強すぎるのに加え、事件の解決はあくまで”ついで”ということもあり好き嫌いがはっきり分かれるのではないかと感じました。
珍しいヒロインが登場する作品を読みたいという方や、純粋にクセの強い作品が好きな方にはとてもおすすめです!!
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